要請・提言書


自衛隊からの情報提供の依頼に対する熊本県の対応に抗議し、改善を求める要請書 2019年3月25日
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熊本県知事  蒲島郁夫様
    
 2019年3月25日
 日本共産党熊本県委員会
 委員長   日高伸哉
 県議会議員 山本伸裕
 熊本地方議員団

 自衛隊からの情報提供の依頼に対する熊本県の対応に抗議し、改善を求める要請書
 
 自衛官および自衛官候補生の募集に関し、自衛隊から熊本県知事に対し、「当該募集事務に必要となる募集対象者の氏名、出生の年月日、男女の別および住所の情報に関する資料の提出について、下記の内容の依頼がおこなわれています。
 1、自衛官および自衛官候補生募集に関し必要となる募集対象者情報に関する資料についての紙媒体等での提出。
 
 住民基本台帳法では、個人情報保護の観点から、政府機関の事務の遂行に必要な場合でも閲覧しか認めていません(別項①)。したがって、自衛隊からの依頼は住民基本台帳法を踏みにじる違法行為を自治体にせまる、許しがたい行為であります。
 いっぽう自衛隊が募集対象者情報を求めることができる根拠として、自衛隊法施行令第120条が掲げられていますが、これは「必要な報告または資料の提出を求めることができる」というものであり、市町村が応じる義務はありません。あくまで自治体の判断にゆだねられている問題であります。また、120条で言う「資料」とは、応募適齢者の概数などを意味するにすぎず、個人情報は含まれないと解釈すべきであるとして、「募集対象者の氏名、出生の年月日、男女の別および住所の情報に関する資料の提出」を求めるというのはまさに個人情報の丸ごと漏洩である、と指摘する法律専門家の声もあります。
 
 ところが、熊本県はこうした自衛隊からの要請を受けて、なんと「住民基本台帳担当課に対し、周知いただくとともに、自衛官等募集対象者情報の提供について配慮いただきますようお願いします」という文書を、県総務部市町村・税務部局長名で、各市町村長あてに通知しています(別紙)。
 地方自治法では、都道府県と市町村は対等・協力の関係にあり、都道府県が市町村に関する連絡調整に関する事務をおこなう際にも、法律や政令の根拠がなければ、市町村に関与することはできないとされています(地方自治法245条の2)。熊本県はどのような権限をもって、こうした通知文を出しているのでしょうか。
 紙媒体で、入隊適齢の住民の個人情報一覧を自衛隊に提供している市町村の比率は、熊本県は全国平均よりもきわめて高い状況です。熊本県から市町村に出された通知文が影響していることは明らかではないでしょうか。
 
 ところで、いま安倍首相は、改憲と自衛官募集をめぐる発言を繰り返しています。「(自衛隊の)新規隊員募集に対して都道府県の6割以上が協力を拒否しているという悲しい実態があります」「この状況を変えようではありませんか。憲法にしっかりと自衛隊を明記して違憲論争に終止符を打とうではありませんか」(2月10日の自民党大会での演説)などという主張は、改憲運動を繰り広げる極右団体である「日本会議」系団体が主張していることと軌を一にしています(日本会議が昨年12月に「憲法改正の国会論議」を求めて開いた集会で配布されたビラには、「地方自治体の6割強は、自衛隊の隊員募集に協力をしていません」「自治体が円滑に業務を遂行するため、自衛隊の憲法明記を」などと記されています)。
 こうした発言がなぜ繰り返されるのか、その要因を考える必要があります。一つは自衛隊組織の高齢化と顕著な隊員数の減少傾向です。自衛隊員の平均年齢は1990年の31.8歳から2011年には35.6歳まで上がっています。一方で、以前は4万~5万人台で推移していた非任期制の「一般曹候補生」は2017年度、応募者数は2万9,151人にまで減少。任期付きの「自衛官候補生」も減少しています。防衛省・自衛隊は打開策として採用年齢の引き上げをはかるとともに、隊員募集への自治体動員を強化しています。
 もう一つの要因は、若者の足が自衛隊から遠のいているという実態です。明治大学特任教授の纐纈厚氏は、「自衛官応募減少の背景には、少子化による労働人口減のほか、自衛隊そのものの変貌があります。自衛隊が専守防衛ではなく、事実上、外征型の軍隊になり、危険な戦場に送り出されるかもしれないということを、募集対象年齢の若者たちが感じている」と指摘しています。もともと安倍首相が主張する「憲法に自衛隊を明記する」名文改憲の狙いは、戦力不保持を規定した憲法9条2項を死文化させ、海外での自衛隊の武力行使を無制限に可能にするところにあります。実際、安保法制が施行されたもとで、戦力の増強がはかられ、実践さながらの日米共同軍事演習など、自衛隊の任務が増大しています。
 安倍首相が9条改憲を叫べば叫ぶほど、若者の自衛隊離れがすすむのは当然のことではないでしょうか。
 
 こうした背景の下で、名簿提供に応じない自治体に対し、安倍首相は執拗な非難をおこない、適齢者名簿を強制的に提出させようとしているのです。しかしこうした行為は、憲法で保障されている人権を踏みにじるものであり、かつ地方自治への乱暴な干渉にほかなりません。若者の名簿の強制的な提出は、若者を戦場に強制動員することにもつながりかねません。ましてや、熊本県が安倍政権・自衛隊の不当な要請に追随し、市町村に事実上圧力をかけるような通知を発することは、自治権に基づき、県民のいのちと暮らしを守る責任を果たすべき地方公共団体の対応としてはあまりにも軽率であると言わなければなりません。

 よって、日本共産党熊本県委員会は、以下の項目について蒲島知事に申し入れるものです。

 1、自衛隊からの依頼を受けて各市町村に対し、熊本県が情報の提供について配慮を求めた通知を出したことに抗議し、中止・撤回することを求めます。
 2、自衛官募集対象者情報の「紙媒体等での提出」を求めてきている自衛隊に対し、熊本県として抗議し、今後そのような依頼を行なわないよう求めること。
 3、各市町村に対し、地方自治、人権尊重、個人情報保護の立場に立った対応を求めること。
 4、自主的判断により自衛隊に情報提供をおこなっている市町村に対しても、DVや児童虐待等、支援措置を求めている住民や、情報の非開示を求めている住民については、情報の抜き取りをおこなっているかどうかを確認し、その作業がなされていない場合は直ちに是正を指導すること。
 
   以上
 
 別項① 住民基本台帳法からの抜粋
 第十一条:国または地方公共団体の機関は、法令で定める事務の遂行の場合に必要である場合には、市町村長に対し、当該市町村が備える住民基本台帳…にかかる部分の写しを当該国または地方公共団体の機関の職員で当該国または地方公共団体の機関が指定するものに閲覧させることを請求することができる。