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令和3年度一般会計補正予算、および私学助成の拡充を求める意見書を不採択にすることに対する反対討論
日本共産党 山本伸裕 2021年12月21日
日本共産党の山本伸裕です。
まず知事提出議案第1号、および第34号、令和3年度熊本県一般会計補正予算について反対理由を述べます。まず、マイナンバー取得促進事業費2,140万円余、令和4年度の債務負担行為として7,289万円余が計上されております。政府は2022年度末までにすべての国民にマイナンバーカードをいきわたらせることを目標としており、この事業費はまさに熊本県がそのお先棒を担ぐように、市町村が行なうマイナンバー取得促進のための事業を支援することに乗り出すものであります。私は6月議会において、なぜ政府と財界がマイナンバーカードの普及に躍起になっているのか、それは第一に社会保障給付費の削減と国民への徴税強化のため、第二に個人情報の民間活用のためであることを指摘しました。国民の多くがあえてマイナンバーカード取得の必要性を感じておらず、また個人情報漏洩の危険もあるマイナンバーカードの普及のために、県が前のめりになって市町村の取組みの促進をはかろうとすることには賛成できません。
また、TSMCとソニーが、新工場建設のための工業団地の造成に着手したことを受け、下水道処理施設の拡充が必要となったことから、菊陽町から下水道施設の整備を受託した事業として5億4,800万円の企業誘致環境整備事業費が計上されています。事業期間は令和3年から5年度にかけ、総事業費約31億円とのことであります。事業費について県の負担はないということですが、しかしそもそも国民全体が負担するという点では莫大なものがございます。国が工場建設のために助成することとした4000億円という金額は、赤ちゃんからお年寄りまですべての日本国民一人当たり3,300円、4人家族で1万3千円という莫大な金額であり、一つの民間企業の工場建設にこれほどの支援をおこなうということ自体が、前代未聞のきわめて異例な事であります。
これほどの巨額の助成を実現させるために岸田政権は、高速大容量通信規格・5Gに対応できる半導体を製造する工場の建設に、最大で経費の2分の1を助成することができるとするための法改定を、極めて短時間の審議で強行しました。しかも改定法では、助成額の上限は設定されていないため、事業者の設備投資がさらに増えれば、助成額もさらに歯止めなく膨らんでいくことが想定されます。すでに見込まれているTSMCへの助成額4000億円は、それだけで国の中小企業対策費1745億円の2倍以上に当たる金額でありますが、さらにその金額は青天井に膨らむ可能性すら出てまいります。私はこうしたやり方は、TSMC工場の建設が熊本の経済にプラスの影響をもたらす面が仮にあるとしても、そのこと自体にも疑問の声をあげている専門家の方がおられるわけですが、仮にプラス面があったとしても、全国民的な理解は到底得られるやり方ではないと言わざるを得ないと考えます。本来、半導体の確保を必要としている企業があるのならば、その企業自身が自己責任で確保に努めるのが資本主義社会のルールであります。しかも電機、自動車大企業は54兆円もの内部留保を掲げ、半導体確保のために充てることのできる潤沢な資金を十分に蓄えています。いっぽうで、コロナ危機で苦境にある中小企業向けの事業復活支援金は持続化給付金の半分であります。苦境にあえぐ中小企業への支援こそ強化すべきではないでしょうか。半導体製造装置や素材供給では、いまも日本は強みを持っています。こうした分野を支える中小企業へのきめ細かな支援によって、モノづくり技術全体を底上げすることこそ政治の役割であると私は考えるものであります。したがって、今回のTSMC工場建設に際しては、国の莫大な支援のやり方なども含め総合的にみて疑問であるということを表明するものであります。
また補正予算では、同じくTSMCの進出を踏まえ、セミコンテクノパークへのアクセス向上につながるよう、三里木ルートに加え原水ルートや肥後大津ルートについても調査を実施するとして、阿蘇くまもと空港アクセス整備調査検討事業3,655万円が計上されております。ルートの再検討を進めるとしても、新聞社が11月末から12月にかけておこなった意向調査の結果を見ると、依然としてアクセス鉄道の建設には懐疑的な意見が多数を占めている状況であります。またTSMCにせよアクセス鉄道にせよ、熊本の宝である地下水の涵養域において広大な農地をつぶして開発を進めるものであり、このような開発が将来にわたって地下水への影響を及ぼすことはないのか、持続可能な地産地消の経済発展の芽を壊してしまうことにならないのか、熊本の未来に対する重大な責任を負っていることを自覚したうえでの慎重な検証をおこなうことが県政運営において必要不可欠であることを私は強調したいと思います。
次に、請第34号、教育費負担の公私間格差をなくし、子どもたちに行き届いた教育を求める私学助成請願についてであります。委員会の採決は不採択でありますが、採択を求めるものであります。
請願の主旨は、第一に国の就学支援金制度拡充に乗じて削減された県単独予算を復活させ、熊本県における学費補助制度の拡充を求める、第二に、令和2年7月豪雨や、新型コロナウイルス感染症による家計急変家庭への補助制度の拡充を求める、第三に「授業料減免制度」における20%の学校負担分を撤廃し、県の直接事業とすることを求めるというものであります。
請願に対し県の説明は、国の就学支援金制度拡充に伴い、県単独予算で実施してきた授業料減免分は昨年度から、高等学校専攻科生徒への就学支援制度の創設に活用するなど、すべて私学のための予算に充当しているとのことであります。しかし専攻科への生徒への就学支援は、都道府県が実施する場合にはすでに国が所要額を補助することとなっており、多くの県は国の支援拡充に上乗せして独自の学費補助制度を実施する傍ら、専攻科生徒への就学支援も併せて実施しているのであります。また国の就学支援金の上限額39万6千円は私立高校の平均授業料を勘案した金額であり、実質的に授業料無償化が実現されていると言いますが、この支援金はあくまでも授業料のみを対象としており、それ以外の入学金や施設設備費等に使うことはできません。本県の施設設備費平均は年額12万4233円であり、生活保護世帯や非課税世帯であっても保護者負担は免れません。削減された県単独予算を復活させることは保護者、生徒の切実な願いであります。
この請願の提出に際しては、毎年先生方と生徒さんたちが署名をもって議会に訴えに来られています。私学の学校に通うことで親や兄弟に負担をかけて申し訳ないと声を詰まらせながら涙ながらに請願の採択を訴える皆さんの話を、まだその場に参加されたことのない議員の皆さんはぜひ聞いていただきたいと思いますし、そして請願に対して不採択の態度をとられるのであれば、それはなぜなのかという理由もきちんと直接、彼らに伝えていただきたいと思うものであります。私学に通う生徒さんや保護者の願いをしっかり後押ししていくという議会の意思を示すものとして、本請願の請願採択に賛同されることを呼びかけて討論を終わります。