熊本県知事 蒲島郁夫様
日本共産党熊本県委員会委員長 松岡勝
熊本県議会議員 山本伸裕
党熊本県地方議員団
半導体工場等の集中と無制限な開発から「宝の地下水」を守るための申し入れ
台湾半導体企業TSMC 進出と地下水の枯渇・汚染対策について、日本共産党熊本県委員会は、昨年の4 月14 日、「TSMC(台湾積体電路製造)の菊陽町進出について」と題する「見解」を明らかにし、熊本県に申し入れました。
その中で、「地下水を大量に使用するTSMC の菊陽進出、それに伴う企業立地、開発に当たって、県条例に基づく厳格なチェックと対策、県民への情報の公開と説明が求められます」として、「涵養域の立地企業が地下水保全条例に基づきその責任と義務を厳格に履行するために、県・当該自治体・企業間で『地下水保全協定』の締結を制度化すること」などを申し入れました。
この間、TSMC の進出とそれを契機にした企業の立地や開発計画が地下水の涵養地域である菊陽町・大津町などに集中するなか、「地下水は大丈夫か?将来枯渇しないか?」「汚染が心配」などの声が多く寄せられています。
こうした状況をふまえて「宝の地下水」を枯渇と汚染から守るために、熊本県地下水保全条例第4 条「県は、基本理念にのっとり、地下水の保全に関する基本的かつ総合的な施策を策定し、及びこれを実施する責務を有する。2 県は、市町村と連携し、かつ、協力して、前項の施策を策定し、及び実施するよう努めるものとする」に基づく「熊本地域総合地下水管理計画」(以下「管理計画」)の実効性、県の責務が問われています。以下、申し入れを行います。
1.直ちに実行すべき「枯渇」対策――涵養域での大規模開発は地下水にとって命とりになる
「管理計画」は、以下(1)~(4)のように記しています。
(1) 地下水の特長
・県人口の半数以上を占め約100 万人を擁するこの熊本地域は、生活用水のほぼ100%を地下水で賄っている全国でも希な地域である。農業や工業などの産業用水にも多くの地下水を利用しており、この豊富な地下水が熊本地域の魅力の一つとして、多くの企業が進出している。
(2)地下水が豊富な要因
・阿蘇外輪山西側の山麓台地から熊本平野の低地部にかけての一帯は、水を透しにくい基盤岩の形状により、約600 ㎢にもおよぶ大きな地下水盆が形成されている。
・阿蘇カルデラ形成時の大噴火による溶結凝灰岩や軽石凝灰岩等の火砕流堆積物が中九州を広く覆い、その亀裂やすき間に大量の地下水が貯留されている。
・熊本市東部の江津湖や嘉島町の浮島等の湧水地の地下には、「砥川溶岩」と呼ばれる亀裂や気泡の多い帯水層が分布している。
・豊富な降水量・・・熊本地域およびその周辺の降水量は、全国平均降水量 約1,720mm/年より多い(阿蘇山 約3,250mm/年 )。
※いずれも平年値:1971 年-2000 年(熊本地方気象台データより)
(3)熊本地域の水循環
・2041 ㎢の面積を擁する熊本地域には、年間約20 億4 千万㎥の雨が降っている。このうち約7 億㎥は大気中に蒸発し、約6 億4 千万㎥が森林や草地、水田、畑地等で地下水として涵養され、約7 億㎥が白川、緑川等を経て有明海に注いでいる。(略) 特に、白川については、中流域の大津町、菊陽町等の水田に引かれ稲作用水として利用され、この地域で約9 千万㎥の地下水を涵養しており、白川中流域は熊本地域の大きなかん養域となっている。
(4)主要な地下水流動
・主に阿蘇外輪山西側の裾野に広がる菊池台地などの火砕流台地一帯で涵養され、いったん白川中流域の「地下水プール」と呼ばれる地下水面の勾配が緩やかな地域に集まり、ここから水位を下げながら南西の江津湖などの湧水地帯を経て西方の熊本平野へ向かうこと。
以上のような地下水のメカニズムを踏まえると、地下水涵養の最も大事な菊陽町・大津町などへの半導体工場などの集中、大規模な開発が10 年先、50 年先どのような結果をもたらすかは計り知れず、地下水の命とりになりかねません。県として、以下①~③について、責任ある検証を求め、明らかにすることを求めます。また、④について申し入れます。
①TSMC 進出に伴う白川中流域(涵養域)への企業立地・誘致計画、工業団地計画、道路の延伸・拡幅、空港アクセス鉄道、シリコンバレー構想、大熊本空港構想などによる総面積を明らかにすること。
②上記の総面積と地下水涵養の減少量
③10 年後、50 年後の地下水の涵養量と使用量のバランス
④菊陽町・大津町など地下水涵養域での企業立地・開発は、地下水涵養量の減少要因になるのは明らかであり、県として、無制限な企業立地・開発計画は見直すこと。
2.熊本地域の地下水は、汚染物質が深く浸透し、短期間に広がる特質を持っており、「汚染」対策は急務――半導体工場の集中立地と環境問題、特に有機フッ素化合物について
(1)水質汚染の観点から見た地質の特性
・「管理計画」は、「水質汚染の観点から見た地質の特性」を以下のように指摘しています。
・阿蘇大噴火による火砕流堆積物は、風化粘土に乏しく浸透性の高い地質であり、有害物質を含むあらゆる物質が浸入しやすい地質となっている。特に、地下水プー ルに当たる白川中流域は、浅い帯水層と深層の帯水層を隔てる粘土層が欠如もしくは非常に薄い場所が分布していることから、地表で浸透した雨水は直接深層の帯水層まで浸透する反面、漏出した汚染物質も容易に深層に達する恐れがある。
・益城台地から嘉島町、熊本市東部に分布する「砥川溶岩」は多孔質で極めて透水性が高いため、汚染が短期間に広範囲に拡大する恐れがある。
(2)PFAS による地下水汚染の懸念
・熊本県は経済対策として、半導体企業の誘致を戦略的に推進してきました。加えてTSMC の進出を契機に、半導体の集積に拍車がかかっています。半導体工場の集積と大規模な開発と地域の環境、とりわけ「有機フッ素化合物(以下PFAS)(注)の環境への負荷が懸念されます。
・PFAS は、水や油をはじき、熱的・科学的に安定し環境中で分解されにくく「永遠の化学物質」と呼ばれており、4,730 種類以上の物質が国際機関で特定されています。免疫力の低下、胎児・幼児の成長低下、発がん性など、健康への影響が指摘されています。
・PFAS は、半導体生産に使用されており、地下水涵養域で稼働する半導体生産による「地下水・環境の汚染」が懸念されます。
・PFAS の影響が、これまではどうなのか、これからどうなるのかが明らかにされなければなりません。
(注)代表的な物質が「PFOS]と「PFOA」。「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」で、「PFOS」は2009 年に製造・使用・輸出制限の対象になり、「PFOA」は、2019 年原則禁止の対象になりました。日本でも製造・輸出は原則禁止となっています。米国環境保護庁(EPA)のガイドラインでは、「PFOS]と「PFOA」については、これまで水道水1 リットルの含有量はPFOA・PFOS合算で70 ナノグラムとされたのを、「PFOS」は0.02 ナノグラム、「PFOA」は0.04 ナノグラムと厳しくしている。日本では「PFOS」「PFOA」合算で50 ナノグラム以下が安全基準とされている。
(3)過去の痛苦の経験から教訓を学び、事前の十分な配慮のもとに計画を策定することが求められている
・地下水汚染の危機は度々ありました。代表的な事例は、「住宅公団健軍団地建設計画問題」「戸島塵芥埋め立て地問題」です。「熊本地域の地下水研究・対策史」(熊本地下水研究会・
財団法人熊本開発研究センター)は、地下水汚染に危機に遭遇した「住宅公団健軍団地建設計画問題」「戸島塵芥埋め立て地問題」をあげ、「これらの問題は、いずれも他の行政の需要が地下水の実態把握より先行したために発生したもので、今後も同じような事態が発生することが懸念される。このことは、都市施設の建設に際しては、地下水の状況と土地利用面も含めて、事前の十分な配慮のもとに計画を策定することが必要なことを示している」と指摘しています。
(4)県として、県民への説明責任が問われている以下の点について回答を求めます。
①既設の半導体工場関連
・PFAS 等の使用用時期
・ 同 の使用量
・ 同 の処理はどのようになされているか
・半導体工場周辺の地下水、大気の調査はなされているか。なされていればその結果。
②TSMC はじめ今後の進出の半導体工場関連
・PFAS は使用しないこと。代替冷媒は安全性の確認を。
③―①②について広く明らかにし、県地下水保全条例に基づく協定を締結し、違反した場合は厳正に対処すること。
3.地下水保全協定の締結、情報公開と管理の強化
(1)涵養域の立地企業が地下水保全条例に基づきその責任と義務を厳格に履行するために、県・当該自治体・企業間で「地下水保全協定」の締結を制度化すること。
(2)「協定」違反が生じた場合、熊本県地下水保全条例、「開発行為に伴う有害物質の地下浸透の禁止」「施設の構造又は汚水等の処理の方法の改善命令」・第2 章21 条)、「勧告」「許可の取り消し」・第3 章31 条)に基づいて厳格に対処することを重ねて要請する。
以上